花嫁の父




■『 見合いをした娘への手紙
            
■わが娘、幸子へ。

お父さんだ、元気にやってるか?

今夜は、うれしいニュースを母さんから聞いた。

■おまえがようやく見合いをしてくれて、結婚に向けて

男性とおつき合いを始めているということを。


■お父さんは嬉しい。

おまえが、結婚というものをまだあきらめていないんだ、ということがわかったことが。

■結婚生活も、そう捨てたものでもない。

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人は、確かにひとりで生まれてきて、ひとりでまた最後を迎える。

でも、人はひとりでは生きにくい。

■59才のこの年になって、25年間母さんと一緒に暮らしてきて、そう思っている。

でも、相手の男のようすを聞いたら不安になってきた。

公務員、管理職、末っ子、36才、お酒少々、禁煙中、OK、OK。

ん?

入院歴有り、通院中、「こころの病」をもっている?

何だこりゃ?


「こ・こ・ろ・の・や・ま・い」って?


母さんに言わせると、体がカゼをひくように、心もカゼをひくそうだ。

■ただその男のカゼは、すぐに治りそうにもない、長く、

辛抱強くつき合っていかなければならないやっかいなカゼだそうだ。


おいおい、そんな男と結婚してしまっていいのか?

なあ、幸子。

幸子は福祉のことを大学で学んで、養護学校の先生を今日まで10年間勤め上げてきた。

■おまえが社会的に弱い立場、障害をもっていても懸命に

生きている人たちに関心・興味があるのはよくわかる。


わかっていたつもりだ。

その道では、いわば専門家だ。

だけど、それとこれとは別だ。

仕事でのかかわりと、生活を共にする結婚とは全く別だ。

仕事場は「行くところ」、家庭は「戻って来るところ」。

行くところで疲れてしまっても、戻ってくればいい。

でも、戻って来るところで疲れてしまったら、どこへいったらいい?

なあ、幸子、読んでくれるか、読んで欲しい。

■その男へ「優しさ」や「思いやり」の愛情表現をすることで、

実は、高みからの「同情心」や「好奇心」の視線をごまかしていないか?


そんなことはお父さんの妄想、たわ言なら許して欲しい。

またそうであって欲しい。

我慢して読んでくれ。

そこで考えた。

■お父さんが今言える、そういうハンディをもっている人と

パートナーになる、なり続ける秘訣はただ一つだ。


「手加減をするな」ということ。


そう、手加減しちゃあいけない。

■心を病む人と気持ちがつながる瞬間があるとするならば、

手加減なしのぶつかり合いの中にしかないはずだ。


■そして日々、そんな状況に折り合いをつけながらも、

結婚生活を続けていかなくちゃいけない。


その覚悟がおまえにあるか?

それはもちろん、障害の有無に関係ないことだが。

ちょっと酔った。

  ●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●

◆でも、お父さんは思うのだ。

正直に言おう。

■幸子がこの地方の田舎を離れ、就職のため

東京にいかなければならない時、お父さんは、一気に老けた。


確かに老けた。

老けるとは、希望を失うことだ。

でも、お父さんはいったい何に失望したのだろう。

わからない。

いや、そのまえに、お父さんは、いったい何に希望を託していたのだろう。

お金とか出世のこととかじゃないのは確かだ。

そんなものは、とっくにあきらめている。

■そんなことではなくて、たぶん、今から思えば、

一人ぼっちになるのがさびしかったに違いない。


母さんがいるって?

ありゃあ、また別だ。

ほれた母さんとお父さんとの愛の形が、おまえだ、幸子だ。

そんなこと、こんな年寄りから言わせるな!

今はもっと、さびしい。

幸子へ。

どこへ行くんだ、おまえは。

だいぶ酔った。


  ●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●


◆最初に書いたように、結婚に向けてまた動き始めてくれたのはうれしい。

と同時に、やはりさびしい。

隣で洗濯物を折りたたんでいる母さんは、単純にウキウキしているようだが。

なあ、幸子、読んでくれるか、幸子。

世の中は、そうそう思い通りにはいかない。

■そんな当たり前のことを、今言ってもしょうがないことぐらいは、分っているのだけれど。

お父さん(たちの)の宝物が、これからもっと遠くへ行こうとしている。

結婚したらいいこといっぱいいっぱいあるさ、と言い切る自信はお父さんにはない。

■だけど、結婚することはただそれだけで「いいこと」

であるんだと、あって欲しいんだと、つい思ってしまう。


■ところで、結婚式の前にはぜひ、花嫁の父親が花婿に対して

どうしてもしたいことというやつを、父さんにもさせてくれ。


テレビのドラマでよくやっている、あれだ。

その世界一幸せな男を、一発殴らせてくれ。

お父さんは、もう酔ってなんかいない。

わかるよな、幸子。

■おまえのその名前は、幸せ多かれ!という願いを込めて、

33年前にこのお父さんが名づけた。


平成17年10月21日


掛時計の長針と短針が1分間重なり合う真夜中にて


        ◆◆ 完 ◆◆


このエピソードは、フィクション、ファンタジーです。

実在の個人、出来事とは一切関係がありません。


■補足:


■今年6月に発売された「障害者白書」によると、

国民の5%は何らかの障害を持っているということです。

しかも、この数字は超高齢化に伴い、ますます増えていくことが予測されています。

■まとめ:

どれが正しい選択だったか、なんてことは誰にもいえません。

結婚の神様からのあなたへの祝福は、「正解を与える」というかたちでは贈られません。

マニュアルは与えてくれません。

■出会ってつながろうとすることと十分に葛藤した人間だけに、

「なぜ、おまえはそれほどまでに問うのか」ということばで、祝福を贈られます。


■男女がお見合をして一つの目的、結婚、家庭をもつという

目的に向かっていく時、何が求められるのでしょうか。


それは、自分の運命をその瞬間にかけるというほどの強い緊張感です。

■過去の自分を蹴り飛ばすような気迫と決意をもってお見合に臨む時、

自ずと相手との出会いも得られるものです。


■家庭という共同体をパートナーと築く中で、

まずあなたが摩擦や失敗を恐れず、妥協なく行動する。

その積み重ねによって、お互いの本当のつながりが育まれていきます。

ゆるやかあに少しずつ、ゆるやかあに少しずつ。


■今回は、それができる、あなたのために書きました。

ウェディング・ベルを鳴らすその日のために


▼結婚コンサルタント

田代 ゆき生

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