■結婚力養成講座
見合の一日は、
あっという間もなくたってしまっていた。
「きょうは、会ってくれてありがとう、楽しかったです」
■大きく深呼吸しながら、思い切って、ありったけの勇気を
振り絞って口にした。
「それでは、しばらく・・・、僕とつき合っていただけませんか。」
勇気のスイッチみたいなものが、押せた。
ついに、目の前のその女性(ひと)に言えた。
見合い当日の終わり際。
「あ、・・・」
その女性の形のよい唇から出る、次の言葉を待った。
永遠の長さに感じられた。
●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎
■不思議だった。今日は、全部思いっきり話せた。
■3回目の見合いだった。前の2回はまるっきり上がって
しまって、何も言えなかった。

舞い上がっていた。
なんとなくしたお見合い、そう、なんとなくさせられた見合い。
だから、なんとなく終わってしまった見合い。
当然、交際お断り。
◆でも、今度は話せた。
そして、初めて会ったこの女性(ひと)をぜひ、幸せにさせたいと思った。
■先月の9月24日で37才。世間ではもう立派なおじさん、
イヤ、おやじだ。
■これからお見合いができる機会も、無限に残って
いるわけではない、と思っている。
そのぐらい、わかっている。
■だからこそ、というわけでもないが、この女性とぜひ
おつき合いをしたかった。
もちろんその先にある結婚も、当然視野に入っている。
■お見合いの最中、僕はこの女性(ひと)との未来の「もしも」
の物語をしょっちゅう考えていた。
「もしも彼女とおつき合いに入れたら、最初のデートはどこへ行こう」
「もしも結婚をOKしてくれたら、両親にはいつ紹介しよう?」
「もしも結婚したら、どこに住もう? 今のマンションじゃあ、狭いし」
■バカですねえ、ホントに。
一秒にも満たない時間、妄想に耽ることを繰り返していた。
■だけど、どんなに夢のような「もしも」でも、それが現実
になる可能性は、決してゼロというわけではないはずだ、ウン!
◆昨日までは違った。
■未来に「もしも」の入り込むすき間はどんどん小さくなっていて、
代わりに過去を振り返ると彼女(あいつ)との「もしも」の
物語が無数にあった。
それは、まるで屍(しかばね)のように。
■昨日までは「もしも」を想うと、ワクワクするのではなく、
クヨクヨするばかりだった。
「もしも、・・・・しなかったら」とか、
「もしも、・・・・へ行かなかったら」とか、
「もしも、・・・・を言わなかったら」とか。
こちらは、全部否定文。
同じ「もしも」でも、2種類あることを発見した。
希望の「もしも」と、後悔の「もしも」だ。
■どんなにクヨクヨしても、やり直しがきかないこと
ぐらいはわかっている。
■実際には選ばなかった彼女との「もしも」の物語を
思い返すことで、悔い改めをしたいわけでは、ない。
なのに・・・「もしも」を想う。
今の僕ではない、5年前には恋愛結婚をしていた僕を想ってしまう。
子どもも、あのまま生まれていたらもう5才だ。
■流産・・・・だと、言われた。違うかもしれない。
でも、そう信じたい。
彼女との愛の形が「流れ」てしまった時、僕たちの結婚も、「流れ」た。
彼女(あいつ)と僕は5つ違い。
ということは、あの時の僕の年齢に、彼女ももうなっているはずだ。
■彼女(あいつ)との最後のやりとりが、もう遠い遠い昔
のような気がする。
彼女は悪い女じゃなかった。
むしろ、いい女だった。
■でも、ただそれだけの女だった。
それが不満だった、その時は。
■それだけの女で生きることが、意外と難しいんだ
とわかったのは、つい最近。
◆夢に対して二股をかけたのがよくなかった。
その報いか、この5年間、本当に思い通りにならないことばかりだった。
変りたい。
現状維持はもういい。
口ではあれこれ言ったって、やっぱり変わってこれなかった。
正直言うと、本当は、その変化をおっくうがっていた。
変化を嫌っていた。
変化にあこがれつつ、変化しないのが好きだった。
そう、ボーカンシャの立場。
■結婚へのとびらの向こうから聞こえてくるはずの「ウエルカム
(歓迎)!」という声は、実際の声じゃなくて、無言のメッセージ。
■それが聞き取れない時は、どうしても自分でその
とびらをこじ開けようとする。
■でも実際は、とびらはあちらから開くものであって、
こちらからは開けられない。
あちらから、つまり未来から呼ばれない限り、決してひらかれない。
◆何なんだろう、この居心地のよさって。
■この女性(ひと)は、僕の心の奥底にある何かに触れるものを
持った女性だ。
■その瞳の輝きに、僕の中の何かが、ついつい引き込まれ
そうになってしまっていた。
待ち焦がれていた、「僕のミューズ(女神)」。
■また会いたい、今日だけにしたくない、明日につなげていきたい、
つきあいたいというのが正直な気持ち。
だけど、その一方で会っても仕方がない、とも思ってしまう。
変な夢を見るな、と僕はおまえに言い聞かせる。
下手な希望を抱くと、おまえはとんでもない恥をかくことになるぞ。
■今日の、今までのいくつかの会話の断片は、常に
僕の頭の中でリピートしていた。
■奔放で大胆な性格だと思うと、一方では呆れるほど子供っぽい、
無邪気なところも持ち合わせている。
■この女性(ひと)と話していると、自分の中で眠っていた
何かが呼び覚まされるような気がする。
■あれほど自分に言い聞かせていたにも拘わらず、僕はこの女性に
ひかれていく気持ちをどうすることもできなかった。
■今日一日の第一印象で、自分に好意を持ってくれている、
という確信もあった。
■この女性(ひと)と話していると、自分の知らなかった
世界への扉が簡単に開く。
■でも一緒の未来を夢みる時、この女性に付随してくる
もののことを考えてしまう。
◆あちらからの門は、閉ざされようとしていた。
この5年間、諦めることには、もう慣れっこになっていた。
これからもきっと続く。
■この5年間、こんなことの繰り返しが結婚への迷いだった。
未来がなかった。でも、問題はそこからなのだ。
■そこからの努力を、この5年間、おまえはしてきたか?
僕は心の中で首を振った。
いつもこの5年間、僕はあきらめてきた。
あきらめ悲劇の主人公を気取っていた。
ごまかしたって、現実は変わらない。
■どんなに逃げようと、あがいても無駄。
そうだったら、おまえは立ち向かっていったらいいのと違うか?
■逃れられないという前提で、どうお互いにパートナー
となれるかを模索し、努力しなければならないと違うか?
昨日までの自分は、つくづく甘かった。
■結婚したら、引越し、転職、そして出産と、次から次へと
この女性(ひと)の状況の方が僕より変化していくことだろう。
それは、この女性を幸せにするだろうか?
思い通りにならない人生は、おまえ一人で十分じゃなかったか?
◆もうひとりぽっちで暮らす、生きていくのはつらい。
■誰に何といわれようと、つらい。この女性(ひと)と、
幸せを分かち合い、幸せを守っていきたい。
できたら、きっと、必ず、何が何でも、絶対に。
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目の前の「僕のミューズ」はにっこりと微笑みながら、返事をしてくれた。
「ええ、喜んで!
こちらこそ、ぜひ、おつき合いしたいと思っていました」
万感の思いを込めたよろしく!の意味で、僕は直立不動で頭を下げた。
(やったぜ!!)
とびらが、待ちに待ったとびらが、あちらから開いた。
◆◆ 完 ◆◆
■このエピソードは、フィクション、ファンタジーです。
実在の個人、出来事とは一切関係がありません。
■まとめ
■Aさんを選んでも、Bさんを選んでも、あるいはどちらとも
結婚しなくて独身のままだとしても、その状況を全部含めて、
間違ってはいません。
■出会いにはたくさんの物語があり、Aさんを選んだら100%
正解で、Bさんならば間違い、ということは絶対にありません。
どちらを選んでも半分半分で正しかったり、間違っていたりします。
■法律違反なんかは別にしても、「正しい」「間違い」ということを
何でも100パーセントで言い出すようになってしまったら、
結婚はものすごく息苦しくなってしまいます。
■間違った人を選んでしまって、失敗したかなあ、と思ったり、
どっちにしようか決められないなあ、と言って葛藤してしまったり
すること、まるごと含めて、あなたがこれから生きていこうとする、
そして今生きている姿というものは、かけがえもなく
すばらしいものではないでしょうか。
■だからさあ、「正しい」「失敗しない」結婚よりも、
「幸せな」「楽しい」結婚を求めようよ。
■今週は、それができる、あなたのために書きました。
未来はいつだって、闇の中。あなたが手にする幸せは、あなたが与える
幸せと同じです。
もう一度二人で結婚式場を予約する、その日のために。
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